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スマホアプリ「コインパズル」開発者の日記https://bit.ly/35gpWAB

回顧録8〜漫画家アシスタント〜

大学を卒業して一年くらい経った時の事である。
同居人のA君が漫画家アシスタントをしていたのだが、辞めると言う。
私は丁度、漫画修行がしたいと思っていたので、代わりにやらせて貰えないかとA君に頼んだ。
自分で描いた背景と、I can seeを送ると、とりあえず来て、と言う話になった。
 
初回は、黒ベタを塗ったり、トーンを貼ったりした。
周りのアシスタントは自分より圧倒的に絵が上手くて、自分はいつまで経ってもトーン貼りと買い出しと、ベタ塗りと、トーン削りくらいしかやらして貰えそうになかった。
先生はとにかく声が小さいし、指示を書いた文字も読み取りにくい。
聞き返すと機嫌が悪くなる気がする。
家がボロくて汚くて片付いてない。
そんな感じだけど、ラジオはずっとJ-WAVE
 
 
ただ、圧倒的に絵が上手い。
漫画の紙面で見るよりずっと上手い。
1つの絵にここまで拘るかってくらい拘る。
背景の地面には青いシャーペンでパースが書き込まれている。
寝ない。
締め切りの直前まで粘りまくる。
そして夜明けにバイク便で送る。
採算など多分考えてない。
全てを作品のために出し切る、漫画家の理想系がそこにあった。
 
ある日、先生と2人の時、家にある観葉植物を倒してしまった。
そしたら、「何てことしてくれるんだ、おれの唯一の家族を!」って言ってて
気の利いた自虐ギャグだと思うんだけど、笑って良いのか分からなかった。
ただ、打ち解けた雰囲気は少しずつ出て来た気がして、そろそろ背景を描かせてもらえないか、とお願いした。
すると、練習という事で、背景の宿題を出してくれた。
ネームも見てくれる様になった。
一週間後、忙しいはずなのに、ネームに赤がいっぱい入って返ってきた。
ここまで考えてネームって作るんだ、と言うのが率直な感想だった。
嬉しかったし、有り難かった。
今も持っていて、多分一生捨てる事は無い。
 
 
一年半くらい務めて、先生の漫画は見事完結した。
後に先生の漫画はドラマ化され、原作同様面白かった。
もうあの家には住んでいないだろう。